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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)905号 判決

理由

一(一)  昭和四三年五月二一日、被控訴人名義による委託に基づいて訴外株式会社三菱銀行の池袋東口支店から同銀行の銀座支店における控訴人の口座に金五〇万円の電信振込送金がなされたことは、当事者間に争いがない。

(二)  《証拠》を総合すると、前記金五〇万円の送金がなされた経緯として次のとおりの事実を認めることができる。

1  被控訴人は、昭和四三年五月二一日、その知人の紹介を受けてたずねて来た訴外大滝重一から、控訴人において金一〇〇万円を調達しなければならない必要に迫られているので、控訴人にその金員を貸与してやつてほしい旨要請された。

2  しかしながら、被控訴人は、控訴人については当時の商号(株式会社東銀座塩瀬)を聞知しているに過ぎなかつたので、訴外大滝重一の右要請を断わつたが、同道して来た訴外秋元よねよりも、同栄信用金庫世田谷支店における同人の定期積金および世田谷区経堂町所在の所有土地を担保に提供するといつて、持参していた右定期積金の通帳、右土地についての権利証、実測図(甲第四号証の一、二)、昭和四三年度の固定資産税等の納付に関する書類を呈示してなおも懇願されたので、右各書類および図面を預つたうえ、控訴人に貸与するものとして、自ら訴外大滝重一とともに訴外株式会社三菱銀行の池袋東口支店に赴き、電信振込の方法により金五〇万円を同銀行の銀座支店における控訴人の口座に送金してもらつた。

3  以上の経過中において、訴外高橋恭二と控訴人との関係については話題にのぼつたことが全くなく、被控訴人は、右送付にかかる金五〇万円が面識さえない訴外高橋恭二の控訴人に対する債務の弁済に充てられるなどということについては考え及びもしなかつたのである。

原審における証人米田稔および当審における証人秋元よねの各証言中右認定に副わない部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

(三)  ところが、《証拠》によれば、前記金五〇万円の送金を受けた控訴人は、当時その代表取締役であつた訴外渡辺日出男がかねて知人の訴外高橋恭二のために金融をはからせる目的で、控訴人振出の金額三〇万円の小切手および第三者振出の金額二〇万円の小切手各一通を利用させたことに基づく訴外高橋恭二の控訴人に対する債務についての弁済として右金五〇万円が控訴人に送金されたものと考え、そのように処理したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。なお上掲認定のとおり被控訴人をして控訴人に対し貸付けるためのものとして金五〇万円を送金させたことについての折衝に当つた訴外大滝重一および同秋元よねが、右認定のような控訴人の訴外高橋恭二に対する債権の回収にいかなる事情でどのように関与したかということに関しては、本件に顕われた全証拠によつてもうかがい知ることができない。

二  叙上認定にかかる各事実からすれば、控訴人は被控訴人から金五〇万円の送金を受けたことにより法律上の原因なくして利得し、そのために被控訴人に損害を及ぼし、その利益は現存しているものというべきであるから、控訴人は被控訴人に対し右不当利得金五〇万円およびこれに対する昭和四五年三月二六日(本件訴状が控訴人に送達された日の翌日であることが記録上明らかであり、右送達により控訴人は悪意の受益者となつたものとみるべきである。)以降完済まで民法所定の年五分の割合による利息を支払う義務があるものといわなければならない。

三  さすれば、被控訴人の請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから棄却

(裁判長裁判官 桑原正憲 裁判官 青山達 小谷卓男)

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